2006年12月08日

次世代のエネルギー シリーズ ・その2

ちいきしんぶん2006/11/24号掲載

■日常生活に欠かせない「放射線」
放射線には大きく分けて、エックス線、ガンマ線などの〈電磁波〉と、アルファ線、ベータ線、中性子線などの〈粒子線〉の2種類がある。それぞれの特長を生かした技術によって、私たちの日常は安全かつ快適に過ごすことができるのだ。今回は、どんなところに放射線そのものが、あるいは応用技術が利用され、どのような広がりをみせているのかご紹介しよう。身近な生活環境から、各種産業、宇宙開発に至るまで、もはや無限大とも言える、その可能性とは。

■身近なところで、こんなに!

 日常生活とひとことで言っても、実に多様で複雑な分野が重なり合っている。衣・食・住から趣味・レジャーに至るまで、私たちは、見事に使いこなしていると言ってもいいだろう。そうしたあらゆるシーンで活かされている「放射線技術」。一体どんなところに?

●品種改良
 米や果樹、園芸植物などは、昔から品種改良が繰り返されてきたが、一般的に行われてきたのは、自然に起こる突然変異を利用する「交配」だった。これは、自然にゆだねる部分が多いため、「いつ、どこで変異を起こすか」予測が困難なうえ、時間もかかった。そこで、人為的な品種改良を可能にしたのが放射線の照射。
優れた特徴は生かし、特定の部分だけに絞り込んだ改良ができるようになったのである。

●食品・花
 食べ物に放射線を照射すると、発芽防止、熟成を遅らせる、殺虫、殺菌を行うことができる。放射能や放射線が食品に残ることはなく、栄養素もそのままだ。日本ではジャガイモの芽止めや、輸入されてきた花などに照射し、表面の細菌を殺菌、日持ちを良くする効果を得ている。また、害虫駆除にも使われており、これにより農薬を使わずに済むようにもなった。

●工業分野
 放射線にはレントゲン写真のように、物を壊さず内部を知ることができるという特徴がある。非破壊検査と呼ばれ、飛行機や船のジェットエンジンの検査が行えるのだ。トラブルが許されない分野での功績はかなり大きいと言える。その他、ティッシュペーパーのようにきわめて薄い物から、高熱を帯びた鉄板など普通では計りにくい物質の計測にも利用される。また、タイヤや電気コード類、電線などゴム・プラスチック製品の加工、強化にも広く放射線は活躍しているのである。

 



●文化財調査
 貴重な仏像や絵画など、時代を重ねた文化財の調査にも放射線は活用されている。これは、水や有機物も写し出してしまう中性子の性質を活かした技術で、むやみに触ったりできない文化財の調査・修復には、今や欠かせない技術なのである。また、発掘をすれば風化してしまうような古代遺跡の検査ができるという。年代測定など、古代日本の文化を解明するために、重要な役割を果たしているのだ。

●衣料品

 先週号で紹介したように、放射線のグラフト重合(接ぎ木)という技術では、悪臭だけを選んで無臭化することが可能になった。これを繊維に施すことで、消臭効果の高い衣料品ができた。医療現場では病人の肌着、パジャマなど、さらにスポーツウエア、一般の衣類まで幅広い活用がなされている。

●医療現場
 病気の診断や治療に、放射線の存在は不可欠だ。おなじみのレントゲン検査はもちろん、がんの治療までその幅は広がっている。治療では、がん細胞に放射線を当てて患部を破壊するもので、外科手術のような痛みをともなわない。一般的にはエックス線やガンマ線を利用するが、現在は日本で誕生した世界最先端技術、〈重粒子線治療※注1〉が、国内はもとより世界中から注目され、期待が高まっている。また医療器具の滅菌にも放射線は貢献している。たとえば注射針。以前は病院で煮沸消毒をしていたが、今ではほとんど放射線による滅菌。病原菌の殺菌作用があるガンマ線などを使うが、透過能力が高いので、ダンボール箱などに納めた状態のままでも、注射針の内側まで完璧に滅菌できるという。ガーゼや手術用の縫合糸、プラスチック製の人工臓器といった、熱に弱いもの、形が複雑なものでも滅菌が可能になった。

●温泉
 日本は全国に2000ヶ所以上の温泉地がある、温泉大国。その中で、お湯の中にラドン、ラジウムを含む放射能泉がある。有名なのが、鳥取県の三朝(みささ)温泉、山梨県・増富温泉、島根県・池田温泉など。
 秋田県の玉川温泉にはラドンやラジウムを含む〈北投石〉という珍しい石があり、岩盤浴が行われていることで知られている。
 放射能泉は古くから関節リウマチや神経痛、皮膚病に効能があると言われてきた。それは、ラドンなどから出る放射線が細胞に刺激を与え、免疫力を高めるからと考えられているが、今後、学問的な立証・解明が進められていくことだろう。

 地球誕生の瞬間から私たちの周りには、放射線が必ず存在した。身近でありながら、難しそうだからと敬遠してきたが、知ってみると興味はさらに深まりそうだ。

重粒子線治療って?
重粒子線は、電子よりも重い粒子を加速器によって、光の速度近くまで加速したもの。従来の放射線よりも、体の表面や他の組織への影響を抑えながら、体の深いところにあるがん細胞へ集中的に照射。効果的な治療ができる特長を持つ。すでに安全性・有効性が証明され2003年、厚生労働省から高度先進医療の承認を得た。


協力/資源エネルギー庁 (財)日本立地センター
参考資料/「ほうしゃせん歳時記」



Posted by ちいきしんぶん at 12:19 │2006年・特集記事