2006年12月06日

次世代のエネルギー シリーズ ・その1

「原子力」と「放射線」、その働き(ちいきしんぶん2006/11/17号掲載)
高崎市綿貫町にある〈高崎量子応用研究所〉。平成17年10月1日からこの名称に変わったが、それまでの〈日本原子力研究所・高崎研究所〉と言う方が馴染み深いかもしれない。だけど、意外と身近に「原子力」という言葉があるのに、いまひとつ難しそうでよくわからない。原子炉? 核爆発? 放射能? 電磁波? 正直言って「恐い」というイメージはある。きっと、正しく理解できていないからだろう。そこで、今号から3回にわたって、私たちの暮らしにとても身近な原子力をご紹介していこう。

■まずは基礎知識から
 人類は18世紀以降、石油や石炭など「化石燃料」と呼ばれるエネルギーを大量に使うようになった。特に石油は、20世紀になってから電気の利用や交通機関のめざましい発展で大量に使用されてきた。しかし、いずれも地球にとっては限られた資源だ。
 そこで登場したエネルギーのひとつが原子力。日本では電気エネルギーの3分の1以上を原子力が供給している。また、発電以外にも、放射線の工業や医療への利用等さまざまな分野で暮らしに活かされている。
 そこで今回は、その放射線利用の研究をなさっている、元・日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)=(原研)の研究者で、工学博士の須郷高信氏にお話を伺った。「日本原子力研究所は昭和31年に設立された特殊法人です。人々の暮らしが近代的になり、電気の供給を安定させること、原子力の研究を総合的に行うための機関ですね。
 その後、放射線の技術開発も進められましたが、当時は特に分野がなく、エネルギー開発研究の意味で原子力と呼ばれるようになりました。高崎の原研は放射線化学の研究開発機関として昭和38年に設置されました。ここは核分裂を使わない、量子(りょうし)、つまり光化学による研究施設なんです」
 須郷氏によると、光化学(放射線)によるエネルギーの費用対効果は、原子力発電の倍以上にもなるという。また、安全性、安定性の側面からも光化学の未来に大きな期待を寄せる。

■広がる放射線技術の活用
 放射線技術は私たちの暮らしの細部にまで使われている。医療の分野では、病院で使うレントゲン(エックス線の別名)。これは、物質を通過する性質を活かし人間の体内を撮影するものだ。また、最近ではガン治療にも活用されている。直接、患部にガンマ線を照射することでガン細胞を死滅させるというからすごい。
 注射器やカテーテル、点滴用品などの医療器具滅菌といったように、より高い安全性を求める現場にも大活躍だ。
 日常生活では、たとえば電化製品のコードや電線を覆うゴム、プラスチック。そのままでは熱を加えると溶けてしまうが、放射線を照射すると、高熱にも耐えられるようになる。
 腕時計やカメラに使われるボタン電池、空気清浄器、プールで使うビート板、ホテルや公共施設に設置されている煙感知器、ラジアルタイヤの強化、ガラスの着色など、私たちが知らないだけで、生活シーンのいたるところに応用されているのに驚かされる。
 そしてこれらの技術を研究開発しているのが〈高崎量子応用研究所〉なのである。イオン照射研究施設、電子線、ガンマ線の照射施設を持ち、日夜暮らしに役立つ技術を開発し続けている。

■悪臭だけを瞬間消臭?
 前出の工学博士・須郷氏は、(株)環境浄化研究所の社長でもある。原研で30年来「放射線グラフト重合法」を研究し続けてきた第一人者だ。その技術によって、臭いの中から「悪臭」だけを瞬間的に消してしまう消臭剤を開発・製品化し、製造販売の同社を設立した。日本における原研認定第一号のベンチャー企業でもある。
 さて、少し専門的になるが、「グラフト重合」という技術とは…。水溶性の食物繊維にガンマ線を照射すると、分子が活性化し、悪臭を選んで無臭化する新しい機能を導入することが出来た。これが「分子の接ぎ木=グラフティング(重合)」である。食物繊維に放射線を照射することで、分子の一部を切断し、悪臭と反応する官能基を導入する。これが、新しい消臭剤である。この消臭剤と悪臭が化学結合して無害無臭になるのだ。
 グラフト重合による消臭剤は「GLシリーズ」の名称で、スプレー、ゲル、ハンドソープから、空気浄化装置などに展開。一般家庭から医療施設、ゴミ処理施設などに幅広く使われている。
 原料が食品という安全性も評価が高い。「さらに繊維そのものにグラフト重合を施すことで、消臭効果のあるスポーツウエア、下着、靴下、帽子、ブラウスなどを開発しました。もちろん、タオルやマフラー、寝具など繊維でできるものならすべて可能です」この技術による消臭効果はアンモニア臭だと、活性炭の約20倍のスピードで、150倍もの量を消臭できるという。さらにアレルギー成分、発ガン性物質なども吸着し無害化してしまうというのだ。
 放射線技術の開発は無限の可能性を秘めているようだ。

協力/資源エネルギー庁
(財)日本立地センター


◎印刷と放射線の意外な関係
かなり高度な仕上がりが要求される美術全集。色の鮮やかさや美しさは不可欠だ。つまり、紙の上に乗せたインクがにじんだり、混ざってしまう前に素早く乾かす必要がある。そこで速効で乾燥させるドライヤー代わりに放射線を照射。これにより、普通の印刷では表現できない鮮やかな発色が可能になるのだ。

Posted by ちいきしんぶん at 10:36 │2006年・特集記事