2008年06月18日

公共交通機関で行くぶらり水紀行vol.7

2008/6/20号ちいきしんぶん掲載

「大峰沼」標高1000m・周囲約1km(みなかみ町)
神秘がただよう浮島と湿原植物の沼



 徒歩でしかたどり着けない神秘の沼、大峰沼。日本最大級の浮島と、小尾瀬と呼ばれるほど多彩な湿原植物が生育する幻想的な風景は、時の経つのも忘れて、ただただ見惚れてしまう。


■のどかな農村の風景を行く

 半年ぶりの「ぶらり水紀行」である。もう、そんな季節なのかと、改めて時の経つ速さに驚いた。これからの半年間は、ヤブが深くなる「里山をゆく」をお休みして、清涼を求めて水辺を歩くシリーズをお送りする。もちろん、目的地までの移動手段は公共交通機関を利用することと、旅の終わりに温泉に入ることは、今まで通りのお約束事項である。
 高崎から約1時間、上越線「上牧(かみもく)」駅に降り立った。ホームより階下の駅舎まで、学校の渡り廊下のような長い階段を下りる。改札口に駅員はいない。ここで初めて、無人駅だったことに気づく。立派な無人駅もあったものだ。
 従来の登山コースは駅より北の吾妻橋を渡るが、新しく架けられた吊り橋を通る近道を行くことにした。日帰り温泉施設「風和の湯」の案内板を目印に、駅前よりジグザグの階段で法面を下りる。わずか数分で施設へ。時間が早いのでまだ「準備中」の札が出ていた。帰りに立ち寄ることにして、ハイキングコースの道標に従い吊り橋で利根川を渡る。
 突き当たりのT字路に道標はないが、ここは左へ。やがて人家の脇に「大峰沼まで4・3」の案内板を見つける。竹林のなか急坂を登り、国道291号線を渡り関越自動車道のガードをくぐると、桑畑が広がるのどかな農村の風景が出迎えてくれた。

■飽きることのない美しい沼

 ここは小和知(こわち)の集落。豊かな村のようだ。大きな屋敷と土蔵が点在する。田んぼにオタマジャクシが泳ぎ、道の端では道祖神やお地蔵さんが旅人をやさしく見守っている。正しい日本の原風景を見た思いがした。
 集落を抜けると舗道が終わり、いよいよ山道が始まる。杉林の中は涼しく、沢のせせらぎを聞きながら歩くのは、とても清々しくて気持ちがよい。やがて水分(みずわけ)不動尊に着いた。お堂のかたわらに、沢の清水を引き込んだ水場がある。手と顔を洗い、ノドをうるおして、ふたたび歩き出す。ここまで来れば、大峰沼はもうわずかの距離だ。
 短い木道をわたり、伐採された明るい急坂を登る。ふり返ると眼下に小和知の集落が見え、その先に目をやると三峰山、上州武尊山の雄姿が望める。吾妻耶山との分岐を過ぎると、すぐに湖畔へ出た。
 標高1000m、周囲約1。沼の中ほどに浮かぶ浮島は、大きさ、古さ、厚さも本州最大で、生育する湿原植物とともに県の天然記念物に指定されている。周囲の山並みを映しながら静かに水をたたえる神秘さは、いつまで眺めていても飽きさせない妖艶な美しさを漂わせている。

■露天風呂で川風と新緑を満喫

 沼と浮島を望むベンチで昼食をとり、食後は湖畔を一周することにした。ただ歩くだけなら20分もあれば回れるが、それではもったいない。陽光の反射により微妙に色合いを変える水面、角度により様々な形を見せる浮島、飛翔する水鳥の姿に目を奪われるたびに足を止めてしまう。たっぷり40分をかけて沼を一周した。
 約700m離れたところにある古沼へは、往復約25分。午後のこの時間になると、平日でも何組かのハイカーとすれ違った。マイカーの場合は、古沼の下に駐車場があるので、そこから徒歩となる(大峰沼まで往復約60分)。
 古沼は、水面上の木の枝に卵を産むことで知られるモリアオガエルの生息地として有名。湖畔は柵で囲まれていて水際までは入れないが、周回はできる。以前訪ねた時にはカエルの姿を見かけたが、今回は鳴き声だけが、うっ蒼とした水辺に響いていた。
 復路は大峰沼までもどり、往路と同じ道をたどった。上牧温泉まで標高差約600mをひたすら下るだけだ。「風和の湯」へは、1時間半で着いてしまった。無色透明の良質な湯は、温泉宿と同じ硫酸塩・塩化物温泉。露天風呂は小さめだが、川風がほどよく入り込み、新緑を眺めるには絶好だ。何よりも館内が静かなのが気に入った。どうしてこんなに静かなのかと館内を見渡してみたら、日帰り温泉施設定番のカラオケがないのである。おまけに休憩処は、持ち込み可! さっそく湯上がりに、持参のピーナッツとさきいかをつまみに、続けざまに2本の缶ビールを空けてしまった。
 ほろ酔い気分で、駅へと向かう。と、駅前に酒屋を発見! 電車の時刻までは、まだ時間がある。ホームで電車を待ちながら、もう1本だけ楽しむことにした。
(フリーライター/小暮 淳)