2007年11月15日

高崎周辺のぶらり水紀行 vol.6

2007/11/16号ちいきしんぶん掲載

「七ツ滝」約1㎞(安中市松井田町)
碓氷湖から渓流を遡上してめがね橋へ

地図にも載らない、ガイドブックでもほとんど紹介していない、知る人ぞ知る幻の滝「七ツ滝」。渓流を渡り、岩壁を登る難所も多々あるが、大小7つの滝が累々と落ちる渓谷美は、必ずや訪れる者を魅了する。

■アプトの道で野猿の群れに出会う
 早朝、信越線「横川」駅に降り立つ。横川といえば「釜めし」、釜めしといえば「おぎのや」。おぎのや、といえばTVドラマ『釜めし夫婦』を思い出してしまうのは、かなり人間が古い証拠だろうか。いずれにしても、横川駅に降り立つのは、子供の頃以来だから、かれこれ40年ぶりになる。
 まだ閉まっている釜めしの販売所を横目に、「アプトの道」の起点となる「碓氷峠鉄道文化むら」をスタートした。アプトの道とは、明治26年にドイツの山岳鉄道で使用されていた「アプト式」を採用して開通した横川〜軽井沢間の鉄道跡が、レールもそのままに整備さた遊歩道。国の重要文化財に指定されている終点の「めがね橋」まで、約4┥のハイキングが楽しめる。
 今回の水紀行は、アプトの道の途中にある碓氷湖から碓氷川源流を遡上して、めがね橋まで登るコースをゆく。ゴール地点は同じでも、一般観光客とは目的が違う。レンガ造りの建物が美しい「旧丸山変電所」、日帰り温泉施設「峠の湯」を右に左に眺めながら、スタート地点の湖を目指して、足早に歩く。途中、野猿の群れに出会った。子猿を抱えた母猿の微笑ましい姿に、しばし心を奪われた。

■意を決して靴を脱ぎ渓流の中へ
 駅から約1時間で、碓氷湖に着いた。めがね橋を模しているのだろう、湖に架かるレンガ色の2つの橋と、全山紅葉の山並みを映す湖面とのコントラストが見事だ。錦繍美の観賞もそこそこに、湖畔を半周して碓氷川が流れ込む湖頭へ。10年ほど前に訪れた時には、確か遊歩道が整備されていたはずだが、川原は荒れていてルートの判断が難しい。川筋も蛇行により、流れを変えていた。突然、視界に入った「熊出没注意」の看板に、あわてて熊よけの鈴と笛を取り出して鳴らす。
 道がないので、仕方なく石ころと流木を乗り越えながら、左岸を歩いて上流を目指す。道があった!と思ったら、川の対岸だった。前方は堰堤に、はばまれている。水深は目測で足のくるぶしから、深くてふくらはぎ程度とみた。意を決して、靴と靴下を脱いで、いざ川底へ。抜き足、差し足で足元を確かめながら、ゆっくりと前進する。温暖化とはいえ、晩秋の渓流の水は、かなり冷たい。岸へたどり着く頃には、足の感覚がなくなっていた。
 右岸に渡ると、荒れてはいるが遊歩道らしき道すじが続いていた。めがね橋方面を示す道標もあった。一旦、川瀬から離れ堰堤を巻いて山の中へ。ふたたび川岸へ下りる。木の階段がしつらえてあるが、所々朽ちていて苔もむしている。ただ、手すりのクサリだけは真新しかった。次第に瀬音が大きくなっていく。やがて、大きな滝の姿が目に入ってきた。

■次々と現れる大小の滝に拍手喝采
 だが、またもや渓流にはばまれて道が消えてしまった。断念するのか、それとも強行突破か!? 水深は先程よりさらに深く、流れも速い。同行のカメラマン氏と思案の末、石の橋を造ることにした。適当な石を見つけては、手当たりしだいに川底へ投げ込んだ。格闘すること約15分。なんとか3ヵ所に石の島を造り、跳んで渡ることができた。
 落差約10m、布のような白い流れが4段に滑り落ちる優美な滝だ。七ツ滝とは、大小七つの滝の総称で、一つ一つには名前がない。これほど立派な滝が名無しとは、かわいそうである。見ようによっては、4つの釜を伏せた形にも見える。と、いうことで勝手に「四つ釜の滝」と命名させてもらった。
 滝の脇の岩壁を、クサリをたよりによじ登る。水しぶきが顔にかかるほどの滝との一体感は、滝好きにはたまらない興奮をおぼえる。登りきると今度は、滝口の上から滝壺を見下ろす迫力!
 前方に目をやれば次なる滝が現れ、遡上するごとに小さな滝が累々と続く。その流れの美しさと勇壮さに、思わず拍手をしてしまった。まるで名舞台を観た時のスタンディングオベーション状態である。興奮が覚めやらぬまま、やがてひと登りで旧国道18号へ出た。ところが、遊歩道の出口には「立入禁止」の立札があった。もしかしたらこのコースは現在、閉鎖されているのかも。だとしたら、一日も早い整備が望まれる。
 レンガ造りの4連アーチ式鉄道橋「めがね橋」は、何度見ても圧巻である。バスも止まっていて、たくさんの観光客で賑わっていた。帰りは、めがね橋の上を歩いて渡り、そのままアプトの道を戻ることにした。途中、「峠の湯」に入り泥と汗を流し、カメラマン氏とシリーズ連載1周年の祝杯をあげてから、ほろ酔い気分で駅へ向かって歩き出した。
(フリーライター/小暮 淳)